東京地方裁判所 昭和54年(ワ)10331号 判決 1980年12月08日
原告 柴田国夫
右訴訟代理人弁護士 稲野良夫
被告 株式会社加藤建築事務所
右代表者代表取締役 加藤伸一
右訴訟代理人弁護士 清水健
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告から二一三〇万円及び内三〇〇万円に対する昭和五二年一二月二一日から支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いを受けるのと引き換えに、原告に対し、別紙物件目録記載の土地・建物につき、昭和五二年七月二九日の売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、昭和五二年七月二九日、株式会社カツミ商事(以下「訴外会社」という。)との間で、別紙物件目録記載の土地・建物(以下「本件物件」という。)を次の約定で訴外会社に売り渡す契約(以下「本件売買契約」という。)をした。
(一) 代金 二六三〇万円
(二) 支払方法
(1) 手付金として五〇〇万円を契約締結と同時に支払う。
(3) 三〇〇万円を昭和五二年一二月二〇日限り支払う。
(2) 一八三〇万円を昭和五三年六月末日限り支払う。
(三) 訴外会社の都合により第三者名義にしても、被告は、異議なく承諾する。
2(一) 訴外会社は、昭和五二年一二月、原告に対し、本件売買契約の買主の地位を譲渡した。
(二) 訴外会社は、昭和五二年一二月、原告に対し、本件売買契約に基づく所有権移転登記請求権を譲渡した。
3(一) 被告は、前項の買主の地位の譲渡ないし本件売買契約に基づく所有権移転登記請求権の譲渡をあらかじめ承諾した。
(二) 原告代理人柴田国昭は、昭和五二年一二月、被告に対し、口頭で買主の地位の譲渡ないし本件売買契約に基づく所有権移転登記請求権の譲渡を通知した。
4 よって、原告は、被告に対し、残売買代金二一三〇万円及び内三〇〇万円につき支払い日の翌日である昭和五二年一二月二一日から支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による損害金の支払いと引き換えに、本件物件につき、請求の趣旨記載の所有権移転登記手続を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、(三)の事実を否認し、その余の事実は認める。
2 同2(一)及び(二)の事実は不知。
3 同3(一)及び(二)の事実は否認する。
三 抗弁
1 (履行遅滞による解除)
(一) 被告は、訴外会社に対し、昭和五三年一月一七日到達の書面をもって、到達の日より五日以内に中間金三〇〇万円の支払い債務を履行するよう催告し、右期間内に支払わないときには本件売買契約を解除する旨意思表示した。
(二) 訴外会社は、同月二二日までに三〇〇万円を支払わなかった。
2 (合意解除)
被告と訴外会社とは、昭和五二年一月二六日、本件売買契約を合意解除した。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1(一)及び(二)の事実は不知。
2 同2の事実は否認する。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因1の事実(ただし、(三)の事実を除く。)は、当事者間に争いがない。
二1 《証拠省略》によれば、本件売買契約書の第三条は、「売主は本物件引渡し迄保管に関する一切の責任を負い昭和五参年六月末日迄に買主又は買主の指定する者に対し本物件の明渡し手続きを完了して完全なる所有権の移転登記申請の手続を完了しなければならない。但し買主の都合に依り第三者名義にしても売主は異議なく承諾の事。」と定めている、と認められる。
2 そこで、右条項の趣旨を検討する。
債務を伴う契約上の地位の譲渡は、責任財産の転換という結果をまねき、契約の相手方たる債権者が不利益を受けるおそれがあることから、債務を伴う契約上の地位の譲渡契約は、債権者の承諾がないときは債権者に対して効力を生じないと解せられ、債務を伴う契約上の地位の譲渡をあらかじめ承諾することは(特に譲受人が特定していない場合には)、特段の事情のない限り、これを認めることができない、と解するのが相当である。
これに対し、民法四六七条一項は、指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知し又は債務者が承諾をするのでなければ、債務者に対抗することができない、と定めているが、右条項は、もっぱら債務者が二重弁済の危険を負わないように、債務者を保護する立場から設けられた規定であり、責任財産が移転することはないから、債務者が、みずからの意思で、かかる利益を放棄し、事前に債権譲渡に承諾を与えることもできる、と解するのが相当である。
これを本件についてみるに、《証拠省略》によれば、本件売買契約の契約書は、一般に市販されている契約書を利用したものであり、第三条の文言はあらかじめ印刷されているものであること、被告代表者は、右契約書の第三条は、売買代金が支払われた時点において、第三者に転売あるいは名義変更することを了解した趣旨である、と理解している、と認められ、右認定事実に前記第三条の文言を総合すれば、本件売買契約書の第三条は、売主が、買主の所有権移転登記請求権の譲渡をあらかじめ承諾した趣旨と解するのが相当であり、買主の地位の譲渡をあらかじめ承諾した趣旨を含むとまで解することは困難である(買主の地位の譲渡をあらかじめ承諾した趣旨と認めるに足る事実は、本件全証拠によっても、認められない。)。
三 (買主の地位の譲渡を原因とする請求につき)
仮に、原告が訴外会社から本件売買契約の買主の地位を譲り受けたとしても、被告が右地位の譲渡を承諾した旨の主張・立証はない(本件売買契約書の第三条が、右地位の譲渡をあらかじめ承諾した趣旨と解することができないことは、前示のとおりである。)。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、買主の地位の譲渡を前提とする原告の請求は、理由がない。
四 (所有権移転登記請求権の譲渡を原因とする請求につき)
《証拠省略》によれば、抗弁1(一)及び(二)の事実を認めることができる。
してみると、本件売買契約は買主の代金不払いにより解除されたことになるから、仮に、原告が訴外会社から所有権移転登記請求権を譲り受けたとしても、所有権移転登記請求権の譲渡を原因とする原告の請求は、理由がない。
五 以上のとおり、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林正明)
<以下省略>